肺癌とイレッサについて

2012年秋に、末期の肺癌と診断されました。

以来、万が一に備えて粛々と準備しつつ、抗癌剤イレッサの服用を中心として、前向きに治療に取り組んでいます。

その発見から現在に至るまでを記します。同病者のご参考になれば幸いです。

男性、2013年で満51歳(1962年4月生まれ)、身長177cm、体重61kgです。
喫煙経験はほとんどありません。
両親・兄弟・近い親戚に肺癌はいません。

1. 健康診断で発見

2012年7月12日(木)

一日人間ドックを医療法人松英会馬込中央診療所で受診しました。

年一回の恒例として受診しています。前回は前年の7月27日(水)でした。

7月20日(金)

結果が郵送されてきました。

胸部X線:左中肺野コイン状陰影
総合判定:E(要精密検査
「胸部所見について、CT検査による精密検査が必要です」

早速、馬込中央診療所に電話をして、呼吸器担当の先生がいらっしゃる23日(月)に診察の予約をしました。

7月23日(月)

医療法人松英会馬込中央診療所で呼吸器担当の先生の診察(面談)を受けました。

胸部X線画像を見ると、確かに左肺に白い影がありますが、素人目には「良く見つけたな」という感じです。

2012年7月12日の胸部X線画像

しかし、胸部CTスキャンを撮ると、今度は、素人目にも「これは肺癌だろうな」という塊を確認することができました。

2012年7月23日の胸部CT画像

CTの画像は仰向けになった人を足元から見た画像です。したがって、右側が左肺です。

「もし肺癌だった場合、馬込中央診療所では治療ができないため、昭和大学病院か大森赤十字病院に紹介する」と言われましたので、大腸ポリープの切除と食道ポリープの切除でお世話になったことのある大森赤十字病院に紹介してもらうこととし、紹介状とCTのデータを収めたCD-Rを作成してもらい、帰宅しました。

帰宅後、早速大森赤十字病院に電話をして、8月3日(金)に予約をとりました。

まずは、見つけてくれた医療法人松英会馬込中央診療所の先生に感謝です。もしかしたら、玄人であれば朝飯前なのかもしれませんが、私が最初に胸部X線写真を見たときには「どこにあるの?」という感じでした。

痛い、息苦しいといった自覚症状は全くありませんでしたので、もし、このとき見逃していれば、自覚症状が現れるまで、あるいは、翌年の健康診断まで見つからなかったでしょう。そして、見つかった頃には深刻な事態になっていたに違いありません。

自覚症状が無いどころか、土曜日と日曜日はランニングをしており、当時はとても調子が良かったです。

肺癌は転移しやすい癌のため、早期発見がとても重要で、「年に2回の健診が望ましい」と言われます。仕事をお持ちの方は、現実的にはそれは難しいと思われますが、少なくとも年に1回は健診を受けましょう。できれば、きちんと見つけてくれそうな先生がいるところで。

肺癌は遺伝的要因の少ない癌と言われていますが、喫煙等の生活環境を共有していることが発癌の要因を共有していることにつながる恐れがありますので、両親や同居のご家族に肺癌の方がいらっしゃる場合は、50歳になりましたら、年に2回、健診を受けられることをお勧めします。

2. 原因はフクシマ?

2012年8月3日(金)

医療法人松英会馬込中央診療所の紹介状と胸部CTのデータを持参し、大森赤十字病院の呼吸器内科の診察を受けました。

大森赤十字病院は呼吸器内科と呼吸器外科に分かれていて、肺癌の場合、手術と一部の検査以外は呼吸器内科が担当します。

医療法人松英会馬込中央診療所の胸部CTの画像を見て、形状の以下の特徴から、すぐに、「肺癌にほぼ間違いない」と診断されました。

  • トゲのような突起がある(spicula)
  • 胸膜に向かって伸びている

そこで、これから約1カ月かけて、いろいろな検査をし、肺癌の種類とその進行度(ステージ)を特定することとなりました。肺癌には以下のような種類があり、その種類と進行度により、治療の方針が異なるためです。

非小細胞癌腺癌小さな気道に発生。
女性の場合はこの種類であることが多い。
60%
扁平上皮癌大きな気道に発生。
男性や年配者に多い。
非喫煙者には見られない。
20%
大細胞癌腺癌や扁平上皮癌以外の癌。
小細胞癌に似た性質が見られる。
5%
小細胞癌非喫煙者には見られない。
進行が速く、転移しやすいため、発見時には既に手遅れの場合が多い。
15%

これは、癌細胞の形状・大きさによる分類です。上記の他、非小細胞癌のうちに、腺扁平上皮癌があります。
また、性差があります。男性の場合の腺癌の比率は40%程度に下がり、他の癌の比率が上がります。男性の場合、喫煙者の比率が高いことに起因していると考えられています。

私の病歴を調べているうちに、約10カ月前の2011年9月29日に食道と胃の境目にできたポリープを切除する際に胸部X線写真を撮っていることが分かり、見てみることとなりました。すると、10mm大コイン状陰影があるではありませんか。つまり、約10カ月前には既に発症していたのです。

2011年9月29日の胸部X線画像

現在約20mmですから、約10か月間で、直径は2倍に、球形であれば、体積は8倍になっています。もし、全ての癌細胞の大きさが同じで、寿命が十分長いと仮定すると、細胞分裂はたかだか3回しかしていないことになります。癌細胞の寿命は意外と短いのでしょうか? それとも、私の免疫細胞が頑張って抑えていたのでしょうか?

この夜、国立競技場でフライデーナイトリレーマラソンに参加。以後当分できなくなるであろうランニングを楽しみました。

8月6日(月)

胸部CT(造影剤使用)

造影剤を腕から血管に注入し、胸部CTを実施しました。

造影剤を腕から注入すると、10秒程度で、手指、足指、肛門、睾丸が風呂に入ったように暖かくなります。毛細血管が拡張することに伴う症状のようですが、これを造影剤が行き渡った証左として、CTスキャンが始まります。私の場合、他に副作用は見られませんでした。

2012年8月6日の胸部CT画像
8月7日(火)

検査入院。

入院して、以下の検査等を実施しました。

  • 血液検査
  • 脳MRI(造影剤使用)
  • 肺組織採取

肺組織採取
気管支鏡検査(経気管支鏡的肺生検・擦過・洗浄細胞診)

霧状になった麻酔液を吸い込んで気管に麻酔をかけ、造影剤を使用して胸部MRIを撮りながら、気管支鏡を挿入します。胸部MRIの画像を見ながら気管支鏡を患部に誘導し、先が小さい洗濯バサミのような器具を気管支鏡を通して挿入し、細胞を採取します。

麻酔の効きが悪かったのか、あるいは、担当した女医さんが下手だったのか、はたまた、そういうものなのか、とても痛く、むせて咳き込みました。咳き込むと、気管支鏡(特に先端)が気管に当たって更に痛く、また咳き込む、という負のスパイラルに陥ります。そのため、なるべく咳き込まないように我慢しようとするのですが、生理的な反応を抑えるのは難しく、苦労しました。

実際、かなり気管が傷ついたようで、その夜39度の高熱にうなされ、解熱剤を使って熱を下げて、翌日予定通り退院しました。解熱剤を2日分、消炎剤を5日分処方してもらい、飲み続けましたが、薬が無くなってもまだ痛く、結局痛みは1週間くらい続きました。必要な検査とはいえ、代償のダメージが大きすぎるような気がします。

上記の検査のほかに、転移の有無を検査するPETを実施する必要がありますが、大森赤十字病院にはPETの設備がありませんので、新横浜のゆうあいクリニックに外部委託しています。いつもはすぐには予約がとれないそうですが、お盆の頃は比較的空いているようで、1週間後の15日(水)に予約をとることができました。

ゆうあいクリニック宛に紹介状と胸部CTのデータを収めたCD-Rを作成してもらいました。

今回の検査とPETの結果が出る頃を見計らって、次回は24日(金)に受診することとなりました。

8月15日(水)

PET/CT(於ゆうあいクリニック)

癌細胞は正常細胞に比べてたくさんのブドウ糖を取り込む特性があります。そこで、ブドウ糖に似た分子構造を持つ成分に放射性物質を組み込んだ薬剤(FDG)をつくり、それを体内に注入します。癌細胞があれば、その薬剤が癌細胞に取り込まれ、集積し、PETカメラで撮影すると光ります。ただし、脳は癌細胞と同様にブドウ糖をたくさん取り込みますので、癌細胞の有無にかかわらず光ります。また、膀胱にも排泄される薬剤が蓄積されますので、癌細胞の有無にかかわらず光ります。したがって、この2か所は、別の手段で転移の有無を検査する必要があり、私が7日(火)に脳MRIを受診しているのはそのためです。また、今回、同じ目的で、全身のCTを合わせて撮ります。

肺癌は特に脳と骨に転移しやすいと言われています。したがって、脳への転移の有無を検査することは必須です。

撮影の5時間前までに食事を終え、以後、糖分を摂取してはいけません。

撮影の1時間前に薬剤(FDG)を注射します。以後、安静室で約1時間安静にし、薬剤が全身に行き渡るようにします。その間、排尿を我慢しなければなりません。逆に、検査直前に、膀胱に溜まった余分な薬剤を排泄できるように、水分の摂取を勧められます。

撮影直前に排尿し、撮影室に移って全身を撮影します。

受付から会計まで約3時間かかります。

8月24日(金)

これまでの検査結果の報告を受けました。

脳MRI(造影剤使用)

所見拡散強調像では信号異常はない。
脳内に信号異常はない。
増強効果示す腫瘤はない。
診断脳転移を示す所見はありません。

左肺・上葉生検

病理診断Carcinoma of the left lung. biopsy
左肺の上皮性悪性腫瘍。生検。
所見ほぼ著変のない肺胞組織。
浸潤性増殖を示す癌細胞をみとめます。腺癌、扁平上皮癌、腺扁平上皮癌のいずれとも断定しがたい所見です。

左気管支擦過細胞診

判定Class V
細胞診断・所見N/C比上昇、淡い細胞質・遍在性の核を有し、腫大した核小体の目立つca.cellを認めます。
Adenocarcinoma(腺癌)

左気管支洗浄細胞診

判定Class V
細胞診断・所見擦過標本と同様な、明瞭な悪性細胞を多数認めます。
Adenocarcinoma(腺癌)

PET/CT(於ゆうあいクリニック)

臨床情報検診Xp 左中肺野2cm腫瘍、1週間前にTBLB(transbronchial lung biopsy:経気管支的肺生検)。喫煙歴なし
画像所見 左舌区に腫瘤あり
所見

F-18 FDGの投与量は173.5MBq、投与時の血糖値は87mg/dlでした。
お持ちいただいた画像を参照に読影しました。
左中肺野に結節上の集積を認めます。SUVmax=7.4と高値を示し、悪性と考えられます。CTでは左肺舌区S4に2.2cmのスピキュラを伴う腫瘤が認められ、集積に一致します。気管支の途絶像、胸膜陥入像が認められます。原発性肺癌と考えられます。
肺門、縦隔リンパ節に異常集積は指摘できません。

頚胸腰椎へのびまん性の集積が見られます。CTでは骨破壊像はありません。貧血などによる骨髄機能亢進状態を反映しているものと考えられますが、ややむらがある点が気になります。可能であれば、MRI、骨シンチもご検討ください。

びまん性とは、病変がはっきりと限定することができずに広範囲に広がっている状態を指します。

左仙腸関節の腸骨側に集積が見られます。CTでは関節面に硬化像が見られます。右にも軽度ですが、同様の所見が見られます。osteitis condensans ilii(硬化性腸骨炎)を疑います。

脳や、心臓、肝臓、消化管、尿路系には生理的な集積が認められます。

<そのほかのCT所見>
右肺上葉に3mmの結節が認められます。
PETにてFDG集積は指摘できません。炎症性肉芽腫など良性病変と考えます。
このほかの肺に腫瘤性病変は指摘できません。

脳に占拠性病変は指摘できません。
頸部に異常はありません。
肺門、縦隔リンパ節の有意な腫大はありません。胸水はありません。
肝、胆嚢、膵臓、脾臓、両腎に異常はありません。
腹水はありません。

画像診断左肺癌
リンパ節転移を示唆する所見はありません。
コメント椎体への集積が目立ちます。貧血などによる骨髄機能亢進状態を反映しているものと考えられますが、ややむらがある点が気になります。可能であれば、MRI、骨シンチもご検討ください。

PET/CT検査から、骨(椎体)への転移の可能性がありますので、急遽整形外科を受診し、腰部のX線写真とMRIを撮りました。すぐに結果を確認しましたが、集積が見られた椎体には異常は見られません。そこで、念のため、27日(月)に全身の骨シンチレーションを実施し、30日(木)に整形外科を再受診して骨シンチレーションの所見を伺い、その所見を踏まえて、31日(金)に呼吸器内科で最終判断をすることとなりました。

8月27日(月)

骨シンチレーション

テクネチウムという放射性物質の化合物を含んだ薬剤を注射すると、数時間で骨の代謝や反応が盛んなところに集積します。この薬剤の発するガンマ線を撮影することにより、骨腫瘍や骨の炎症、骨折の有無などを調べます。

8月30日(木)

整形外科を受診し、骨シンチレーションに関する所見を伺いました。

PET/CT検査では、椎体への集積が認められましたが、骨シンチでは、むしろ一部の肋骨に高い集積が見られました。

骨に癌が転移した場合、原発の場所により、大きく造骨型と溶骨型の2種類に分かれます。胃癌が転移した場合は、骨細胞の異常な増殖が認められ(造骨型)、肺癌が転移した場合は、骨細胞が溶ける症状が認められるそうです(溶骨型)。これまで撮影したCTやX線画像を合わせて確認し、骨細胞が溶ける症状は認められないため、骨への転移は無いと判断されました。

骨シンチで見られた集積は、恐らくは、何らかの原因で疲労骨折し、それが修復されつつあるのではないか、とのことです。

8月31日(金)

これまでの検査を元に、呼吸器内科で、肺癌の種類と進行度(ステージ)を判定し、それを元に、治療方針を立てました。

まず、これまでの検査から、以下のような状態であると考えられます。

  • 原発性肺癌
  • 腺癌
  • 大きさは2cm
  • リンパ節への転移はない
  • 他の臓器への転移はない

これらの内容を下の表にあてはめ、進行度はⅠAと判定されました。

N0N1N2N3M1
T1ⅠAⅡAⅢAⅢB
T2ⅠBⅡBⅢAⅢB
T3ⅡBⅢAⅢAⅢB
T4ⅢBⅢBⅢBⅢB

T因子:肺癌原発巣の大きさ

T1腫瘍最大径≦3cm
T2

腫瘍の大きさまたは進展度が以下のいずれかに該当

  • 3cm<腫瘍最大径≦7cm
  • 主気管支に浸潤が及ぶもの
  • 腫瘍の中枢側が気管分岐部より2cm以上離れているもの
  • 臓側胸膜に浸潤のあるもの
  • 肺門に及ぶ無気肺あるいは閉塞性肺炎があるが一側肺全体に及ばないもの
T3

腫瘍の大きさまたは進展度が以下のいずれかに該当

  • 7cm<腫瘍最大径
  • 隣接臓器、すなわち胸壁、横隔膜、縦隔胸膜、壁側心膜などに直接浸潤するもの
  • 腫瘍の中枢側が気管分岐部より2cm以内に及ぶが、気管分岐部に浸潤の無いもの
  • 無気肺・閉塞性肺炎が片肺全野に及ぶもの
T4

腫瘍の大きさには無関係に以下のいずれかに該当

  • 縦隔、心臓、大血管、反回神経、食道、椎体に浸潤があるもの
  • 気管、気管分支部に浸潤があるもの
  • 同側の異なった肺葉内に結節(塊のこと)があるもの

N因子:リンパ節転移の有無

N0所属リンパ節に転移がない
N1
  • 肺癌の同側に気管支周囲リンパ節転移がある
  • 肺癌の同側に肺門リンパ節転移および原発腫瘍の直接浸潤を含む肺内リンパ節転移がある
N2
  • 肺癌の同側に縦隔リンパ節転移がある
  • 肺癌の気管分岐部リンパ節転移がある
N3
  • 肺癌の対側縦隔または対側肺門リンパ節転移がある
  • 肺癌の斜角筋前または鎖骨上窩リンパ節転移がある

M因子:遠隔転移の有無

M0遠隔転移なし
M1
  • 他の臓器に転移があるもの
  • 原発巣と反対側の肺内に結節、胸膜結節、悪性胸水(同じ側、反対側)、悪性心嚢水があるもの

悪性胸水とは生きた癌細胞を含む胸水のことです。

治療方針は以下のようになりました。

  • 癌病巣を含む左肺上葉全部を摘出する手術を実施する
  • リンパ節郭清を実施する
  • リンパ節に癌細胞が認められない場合は、そのまま退院する
    リンパ節に癌細胞が認められる場合は、進行度がⅡAまたはⅢAに上がるため、転移を予防するために引き続き抗癌剤治療を行う

癌は血液またはリンパ液の流れに伴って転移します。リンパ節郭清とは癌細胞が転移している可能性のあるリンパ節を予防的に切除することです。

このとき、画像で「リンパ節転移を示唆する所見はありません」と判定されても、リンパ節郭清で切除されたリンパ節に癌細胞が認められるケースは非常に多く、「手術後、進行度が上がる可能性は高い」と説明を受けました。

私の肺癌は、いつ、何が原因で発生したのでしょうか?

私の場合、2011年9月29日には既に発生し、1cm大にまで成長していることが分かっています。しかし、初期の癌の成長速度は千差万別で、数カ月で1cm大になる場合もあれば、数年かかる場合もあります。したがって、いつ発生したかを特定することは極めて難しく、喫煙歴も遺伝的要因も無い私にとって発生原因を特定することは不可能に近いと言えます。

しかし、私は、一つの可能性として、フクシマを疑っています。すなわち、2011年3月14日(月)に発生した福島第一原発3号機の水素爆発により広範囲に飛散した放射性物質を間接的に吸い込んだ可能性があると考えているのです。

経路は2つ考えられます。

一つは、一般的に言われているように、雨です。
14日夜から15日午前にかけて、福島県と首都圏には北風が吹き、その風に乗って首都圏に到達した放射性物質が、15日の雨に伴い降り注いだと考えられています。東京も記録に残らないような霧雨が降り、その日、傘を持たずに外出していた私は、その霧雨を吸い込んでいる可能性があります。

もう一つはです。
水素爆発の結果、福島県の広い範囲で、土壌が汚染されました。土壌が汚染されたということは、屋外に駐車されていた、あるいは、屋外を走行していた車も汚染されたことになります。本来ならば、汚染された可能性のある地域を一時的に封鎖し、主要幹線道路にクリーニング・ステーションを設けてから封鎖を解除すべきです。しかし、当時の菅内閣はそうした措置を一切講じませんでした。その結果、車を介して、道路に沿って、放射性物質が拡散していった可能性があります。そして、私は国道1号という幹線道路沿いに住んでいるため、車に付着した飛沫を吸引している可能性が十分考えられます。

もちろん、特定地域の封鎖とクリーニング・ステーションの設置に関しては、(a)対象住民のパニック、(b)洗浄用の水の確保と洗浄後の汚染水の貯蔵施設の設営、(c)対象住民に対する差別やいじめの発生、といった課題があることは十分理解しているつもりです。しかし、それを実施して二次被害(放射性物質の拡散)を防ぐのが政府の役割です。政府にしかできないことです。そのため、東電を非難するばかりで、自分たちのやるべきことをやらなかった当時の民主党政府を私は評価していません。なお、クリーニング・ステーションを設けて、そこを通過したものは放射性物質による汚染の心配が無いことのお墨付きを与えれば、(c)のいじめの発生は抑えられるのではないかとも考えています。
本件とは無関係ですが、汚染水の問題に関しても、その拡散の防止に関して政府がもっと積極的に関与すべきと考えています。

これは私の個人的な推察です。大森赤十字病院の先生は、私の癌の発生時期や原因について、一切コメントしていません。フクシマを示唆するようなこともおっしゃっていません。

また、フクシマであると断定しているわけではありません。基本的には「発症時期と発症原因は分からない」という立場であり、フクシマは「一つの可能性」に過ぎません。フクシマが南東北や関東地方の住民に影響を及ぼしたのか、及ぼしたとしたらどの程度なのか、ということは、今後10年~20年の長期的な統計を以って、初めて判断できると言えるでしょう。そして、仮に、その結果「フクシマが南東北・関東地方の住民に影響を及ぼした」と結論が出たとしても、私の癌の発症原因としてフクシマは相変わらず「一つの可能性」に過ぎません。神のみぞ知る、です。

都道府県別の肺癌患者の総人口比

幹線道路沿いに住んでいることそのものが肺癌の原因ではないか、との指摘があると思い、都道府県別の肺癌患者の総人口比を調査しました。

平成23年の都道府県別の肺癌患者数は、厚生労働省の患者調査の「推計外来患者数(患者住所地),都道府県・外来(初診-再来) × 傷病分類 × 病院-一般診療所別 」に依りました。

平成23年10月1日現在の都道府県別の総人口は、総務省統計局の「第2表 都道府県,男女別人口及び人口性比―総人口,日本人人口(平成23年10月1日現在)」に依りました。

それを、対総人口比の降順に並べ、大都市を擁する都道府県及びその周辺の都道府県として、東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県、愛知県、大阪府、兵庫県、宮城県、福岡県をハイライトしました。きれいに分散しており、偏りは見られませんので、肺癌に関して、幹線道路沿いに住んでいることが特異な要因とはなり得ないことが分かります。

都道府県総人口[千人]患者数[千人]
患者総数気管,気管支及び肺の悪性新生物対総人口比
全国127,7997260.515.40.012%
岡山1,941122.80.40.021%
和歌山995 65.20.20.020%
京都2,632141.50.50.019%
富山1,08860.10.20.018%
山形1,16171.20.20.017%
石川1,16660.80.20.017%
鳥取585 34.40.10.017%
大分1,19172.10.20.017%
岩手1,31472.80.20.015%
栃木2,000113.40.30.015%
岐阜2,071126.30.30.014%
奈良1,396660.20.014%
滋賀1,41477.80.20.014%
長崎1,417920.20.014%
愛媛1,42388.80.20.014%
島根712 43.50.10.014%
広島2,855186.40.40.014%
山口1,44293.50.20.014%
高知758 47.70.10.013%
徳島780 510.10.013%
北海道5,486291.50.70.013%
新潟2,362128.60.30.013%
福井803 43.60.10.012%
佐賀847 58.70.10.012%
鹿児島1,699105.50.20.012%
山梨857 48.70.10.012%
熊本1,813123.50.20.011%
三重1,847110.80.20.011%
静岡3,749188.70.40.011%
茨城2,958150.40.30.010%
香川992 64.40.10.010%
群馬2,001113.60.20.010%
長野2,142110.60.20.009%
秋田1,07561.30.10.009%
宮崎1,13172.50.10.009%
青森1,36385.60.10.007%
沖縄1,40161.20.10.007%
福島1,9902.80.00.000%

3. 手術 のち ステージⅣ

2012年9月14日(金)

入院

手術は19日(水)ですが、肺の4分の1を切除するため、手術後に呼吸機能を早期に回復することができるように、手術前からトライボールという器具を使った呼吸訓練を行うこととなり、早めに入院しました。

トライボールというのは、こちらのYouTubeのビデオが示すように、同じ太さの筒の中に、大きさの異なる玉が入った装置です。昔の子供のおもちゃのようですが、3,000円以上しますので、一玉1,000円の高級品です。マイトライボールを買わされます。
マウスピースの付いた蛇管を装着し、マウスピースを口に加えて、勢いよく「吸い込み」、三つのボールを上げ続けます。吸気の勢いが600ml/sec以上になると一つのボールが上がり、900ml/sec以上になると二つ、1200ml/sec以上になると三つのボールすべてが上がります。吸気の勢いが大事ですので、マウスピースをくわえる前に息を十分に吐き出し、一気に吸い込み、その勢いを維持し続けるのがコツです。このコツをマスターすると簡単で、検温の度に看護婦さんにやってみせるのですが、いつも一発クリアでした。

9月18日(火)

手術に関する事前説明

手術を担当される呼吸器外科の先生と麻酔担当の先生から、手術の内容に関する事前説明を受けました。

肺の切除手術の方法には、現在、以下の3通りがあります。

  • 開胸手術
  • 胸腔鏡下手術
  • ハイブリッド手術

開胸手術は従来からある手術方法で、背中から脇腹にかけて約30cm切り開き、患部を直接見ながら手術する方法です。手術がやりやすく、万が一血管を傷つけて大量に出血した場合でも止血などの措置がやりやすい反面、患者の負担が大きく、術後の入院期間が長くなるという欠点がありました。

その開胸手術の欠点を解決すべく、最近増えてきた手術方法が胸腔鏡下手術です。脇の下3か所に小さい穴を開け、「胸腔鏡」と呼ばれる、先端にライトのついたカメラを挿入して、モニタに映し出される映像を見ながら手術を行う方法です。患者の負担が小さく、術後早期に退院できます。ただし、切除したものを取り出すときには6cm~8cmほど切る必要があります。また、血管を傷つけて大量に出血した場合は、開胸手術に移行することがあります。

最終的に6cm~8cm切るのならば、最初からその程度切って、直視と胸腔鏡を併用しながら手術しよう、と考案されたのがハイブリッド手術ですが、実施例はあまり多くないようです。

当初、大森赤十字病院の呼吸器外科では開胸手術の実績しかなかったため、呼吸器内科の先生は外部の胸腔鏡手術のできる先生に私の手術を依頼したのですが、あいにくその先生の都合がつかなかったため、大森赤十字病院の呼吸器外科の先生が胸腔鏡下手術を実施することになりました。

手術の事前説明

この夜、風呂に入り、胸毛と点滴を付ける腕の毛を剃りました。

9月19日(水)

胸腔鏡下左上葉切除手術

10:00 下着を全て脱ぎ、病衣のみを着て、浣腸。「10分ぐらい我慢して下さい」と言われましたが、5分も我慢できずにトイレに駆け込みました。

13:00 足に血栓ができることを防止するために、ふくらはぎを締め付けるストッキングをはき、車いすに乗せられて、手術室に向かいます。

手術室では、麻酔担当医をはじめとする数名のスタッフに迎えられ、早速手術台に載せられて、見事な手際で、点滴、酸素マスク、そして、脊椎に麻酔を注入し続ける管をつけられ、管だらけになっていきます。以前、アキレス腱の接合手術を都立荏原病院で受けたときには、下半身麻酔の脊椎注射がとても痛かったのですが、今回の脊椎への管の挿入では全く痛みを感じませんでした。左脇を上に受け、左腕を上げた体勢で寝かされたところで意識が無くなり、術後ICUに運び込まれるまで目を覚ましませんでした。

意識を失っている間、次のようなことが起きていたようです。

以下の写真に示す3か所に穴を開け、胸腔鏡を挿入しました。

肺癌の手術痕

すると、以下のことが分かりました。

  • 胸水が溜まっている
  • 壁側胸膜に幾つか数mm大の結節が見られる

胸水を採取し、急いで細胞診に回します。残念ながら、胸水中に生きた癌細胞が見つかりました。悪性胸水です。悪性胸水は他の臓器への転移と同等と見られ、進行度は一気にまで上がります。左肺上葉切除は中止。代わりに、以下の措置が実施されました。

  • 癌細胞とその周辺の限られた範囲のみを切除する
  • 胸水を可能な限り吸い出す
  • 胸膜の結節を可能な限り切除する

手術中、胸水の細胞診と並行して、胸膜の結節の迅速診断も実施されましたが、癌細胞(転移)が認められました。後日、もう一度胸部CT画像を見直しますと、胸膜のところにポチッとした突起が見られました。しかし、これを事前に見つけるのは難しいそうです。また、PETでは胸膜上の数mmの結節は検出できないそうです。

傷口は小さいため、縫合せず、接着剤を使って接合します。ただし、一つの穴は、ドレーンと呼ばれる2本の管を残したまま接合します。これは、何らかの異常が見られた場合、切ることなく、薬剤を注入したり、出血した血を抜き取ったりするためです。

その後、21日(金)までICUで過ごしましたが、精鋭が集められているのか、看護士さんが皆良い方ばかりで、とても快適でした。

術後の後遺症としては、肋間神経を切っているため、「とにかく痛い」ということがあります。術後の感染症を防ぐために「痰を吐きだせ」と言われるのですが、そのためにわざと咳をするのがとても痛く辛いです。脊椎に麻酔を注入するために使用した管は残されており、首から下げられたボタンを押すと痛み止めが注入されるようになっているのですが、一度味を覚えると中毒になりそうな気がしましたので、一度もボタンを押すことはありませんでした。また、手術で長時間同じ姿勢でいたため、筋肉が固まってしまったらしく、首を前後に動かせなくなりました。そのせいで、手術の翌日の20日の朝食だけ食べることができませんでした。

ドレーンは20日(木)に抜き取りました。

9月21日(金)

一般病室に移りました。

同時に、尿の管、酸素吸入の管、脊椎に痛み止めを注入する管を取り除きました。残るは点滴のみとなり、とても快適です。

尿の管をとると尿がダダ漏れになるのかと思いましたが、実際はその逆で、体が尿を出すことを忘れてしまって、尿が出にくくなります。膀胱はパンパンで尿意はあるのですが、トイレに行っても一滴も出ないのです。10分以上便座に座って、「出ろ出ろ」と念じて、漸くチョロチョロと出るようになりました。不思議なことに、一度出ると、尿の出し方を思い出すのか、次からは普通に出るようになります。

9月25日(火)

呼吸器外科から手術の結果の説明を受けました。

この時初めて、「手術中に悪性胸水が見つかり、ステージがⅣにあがった。手術不能となったため、左肺上葉の切除は中止し、癌細胞とその周辺のみを切除した。今後は、抗癌剤を中心とした治療となる。」と聞かされました。

ただ、この日までに、酸素吸入をやめても苦しくないし、トライボールの呼吸訓練をやれと言われないし、抜糸の話も無いし、、、なんか変だぞ、、、と思っていたので、意外には感じませんでした。

そして、末期癌と宣告されたショックもありませんでした。実は、入院前から、5年以内に死ぬことを想定して準備をしていたので、「ちょっと予定より早まったな」という感じでした。

病室に戻ると、看護婦さんがお話に来ました。どうやら、末期癌と宣告されて動揺していないか、ショックを受けていないか、確認するためのようです。看護婦さんもカウンセラーみたいな仕事をさせられて大変ですね。そこで、「万が一に備えて粛々と準備しつつ、治療には前向きに取り組みます」という趣旨の話をして安心してもらいました。

9月26日(水)

呼吸器内科から今後の治療について説明を受けました。

まず、切除した癌細胞を解析したところ、以下のような性質をもつ凶暴な癌細胞であることが分かりました。

  • 低分化
  • 脈管侵襲

低分化とは、分化の度合いが低いことです。分化とは、万能細胞が肺の細胞になったり、胃の細胞になったり、肝臓の細胞になったりすることで、その度合いが低いということは、どんな臓器にも成り得る癌細胞、すなわち、転移しやすい癌細胞であることを意味します。また、増殖が速い、発育速度が速いという性質を合わせ持ちます。

また、切除した癌細胞の中心に血管が通っているのですが、その血管壁の内側にまで癌細胞が侵食している様子が見られ、それを脈管侵襲と呼びます。これは血液の流れに乗って癌細胞が移動できること、すなわち、転移のリスクが高いことを意味します。

大きな癌細胞は切除しましたが、リンパ節の中や他の臓器などに癌細胞が残っている可能性は非常に高く、抗癌剤による治療は必須です。上記の解析に並行して遺伝子解析を実施していて、その結果をもって、今後使用する抗癌剤の種類が決まります。

癌は遺伝子が変異することにより、正常細胞の特定の機能が正常に機能しなくなることにより発生します。逆に言うと、癌細胞には、正常細胞には見られない特有の機能があるということになります。そこで、癌細胞の遺伝子を解析して、どの部分が変異したのかを解析し、その癌細胞特有の機能を割り出し、その機能を狙い撃ちして、あるいは、その機能を識別子として、癌細胞のみに作用するような抗癌剤が開発されています。分子標的薬です。

肺腺癌に対しても、分子標的薬が幾つか開発されています。
なぜ「幾つか」なのでしょう。実は、同じ腺癌に分類されていても、遺伝子が変異する箇所はすべて同じではないのです。その結果、癌特有の機能もすべて同じではないのです。すなわち、同じ腺癌でも遺伝子レベルでは以下のように更に細かく分類されます。

変異する遺伝子腺癌中の比率分子標的薬
EGFR(上皮成長因子受容体)遺伝子30%イレッサ®
タルセバ®
ALK遺伝子5%ザーコリ®
その他(不明)65%無し

分子標的薬は、癌細胞の持つ特有の機能を標的としているため、その機能を持たない癌細胞には効きません。そのため、抗癌剤の種類を決めるために、まず、癌細胞の遺伝子を調べて、どの部分に変異があるかを解析しなければなりません。

EGFRという細胞の増殖に関連する組織の遺伝子に変異が認められる場合は、イレッサが適用されます。
当時の厚生労働省のガイドラインの変更により、一般の抗癌剤を試さずに、いきなりイレッサを使用して良いことになりました。飲み薬ですので、入院・通院が不要です。副作用はありますが、正常細胞に影響がありませんので、体も非常に楽です。およそ80%の患者さんで、癌が縮小するなどの効果が見られます。ただし、イレッサは半永久的に効くわけではありません。癌細胞がイレッサに対する耐性を持つと効かなくなります

ALKという細胞の増殖に関連するタンパク質を生成する遺伝子が、他の遺伝子と融合して、ALK融合遺伝子になるという変異が認められる場合は、ザーコリが適用されます。ただし、いきなり使用することができず、まず一般の抗癌剤を使用し、効果が見られない場合にのみ使用するように、厚生労働省が指導しています。

上記の2つの変異が認められない場合は、一般の抗癌剤を使用することになります。点滴で投与しますので、入院が必要です。3週間~4週間の投与を1セットとして、それを4回~6回、効果を見ながら繰り返します。そのため、最低12週間(約3か月間)の入院が必要です。体調が良ければ、合間に一回ぐらい、帰宅が許される場合があります。

どう考えてもEGFR遺伝子変異が陽性であって欲しいですね。
「3割に入ることを願いましょう」という話をして、説明を終わりにしようとしたとき、先生が「念のため、結果が出てないか確認してみましょう。さっきチェックしたときは出てなかったんですけどね。」と言いながらパソコンをいじり始めました。
パソコンをいじる手が止まります。
「結果、出てますね…」
ドキドキしながらモニターを覗き込みます。

EGFR-組織
exon18G719Xヘンイナシ
exon19Deletiケンシツアリ
exon20T790mヘンイナシ
exon21L858Rヘンイナシ
exon21L861Qヘンイナシ

EGFR遺伝子変異陽性です。
イレッサを投与(服用)することになりました。

国立がん研究センターのKapWebで全国がん(成人病)センター協議会に加盟する31施設の癌患者の生存率に関する統計データを見ることができます。「最新」の2004年のデータに基づく、50歳男性肺癌患者の進行度(ステージ)別の生存率は以下の通りです。

生存期間 [年]
12345
ステージⅠ98%97%93%90%88%
ステージⅡ83%72%61%56%56%
ステージⅢ69%44%29%22%20%
ステージⅣ38%19%9%6%4%
50歳男性肺癌患者のステージ別生存率

ステージⅣの場合、生存率が50%となる生存期間は8カ月~10カ月です。
呼吸器内科の先生によれば、「イレッサを使用した場合、余命は1年~2年延びる」とのことですので、予測される余命は2年~3年と考えられます。

ただし、上記の「生存」期間はベッドの上で生存している期間を含みますので、「活動」できる期間はもっと短いことになります。入院期間を半年と見積もって、活動期間は1年半~2年半ぐらいでしょう。

そこで、物品販売はすぐにやめよう、と決意しました。
物品販売をするからには、販売後少なくとも1年間はきちんとテクニカルサポートを提供したいと考えています。販売して、翌日に入院して、もうテクニカルサポートは提供できません、という無責任なことはしたくありませんでした。活動期間を1年間残してやめよう、と決意しました。

よく「末期と宣告されて、ショックだった?」と聞かれますが、何も感じませんでした。
決して強がっているわけではなく、先生の話を聞きながら、頭の中では、平均余命をもとにスケジュール表を作り始めていました。

もともと「痛くないように死にたいな」という願望はありましたが、「死にたくない」という願望はありませんでした。人は誰でも死にます。今まで死ななかった人はいません。ただ、自殺しない限り、死ぬ時と死に方が分からないだけです。その点では、今回末期と宣告されて、だいたい2年~3年後に癌で死ぬ可能性が高いということが分かったのは幸せと言えるのではないでしょうか。

決して諦めているわけではありません。英語で言うとsurviveしようとしています。万が一に備えて粛々と準備しつつ、前向きに治療に取り組んでいます。

肺癌の手術に関する考察(術後1年を経て感じること)

私は、この年齢で肺癌になったことはとても運が悪いと思いますが、肺癌の手術に関しては運が良かったと感じています。

手術中に胸膜への転移と悪性胸水が検出されたことにより、当初の手術計画とは異なり、以下のような結果となったのですが、それがすべて良かったと感じているからです。

  • 左肺上葉全体を切除するのではなく、肺癌の腫瘤のみを切除するにとどまった。
  • 切除部位が少なかったため、開胸手術に至らず、胸腔鏡手術にとどまった。
  • リンパ節廓清を行わなかった。

私は、肺癌、肝癌、脳腫瘍に関しては、極力癌細胞のみを切除するのが望ましいと感じています。それが、肺機能の温存・体力の温存と再発リスクの低減・延命効果とのバランスがちょうど良いところだと感じているからです。この文章を執筆している今、手術から1年1カ月経過しましたが、幸い再発の兆候は見られません。イレッサの効果かもしれませんので、「術後イレッサを使用する場合は」という条件付きかもしれませんが、癌細胞のみを切除するだけで、十分な再発リスクの低減効果・延命効果が得られたと考えられます。たかだか2cm大の腫瘤のために左肺上葉全部を切除するのは著しくバランス感覚を欠いた「やりすぎ」と言えるでしょう。

私は、開胸手術が必要なほどの状態であるならば手術はしない方が良いのではないかと感じています。私は、手術から9カ月も経ったときに、左胸表面の心臓の高さ当たりのところに、肋骨に沿ってゴムの膜でも張ったような張りを感じるようになり、それが今も続いています。生活には全く影響がありませんが、うがいをしたり、腕に力を入れたりする時に気にはなります。肋間神経痛と診断され、肺癌による症状ではなく、手術によって肋間神経を切断した後遺症と考えられます。わずかしか切らない胸腔鏡手術でさえこうした症状が出るのですから、大量の肋間神経をバッサリ切断する開胸手術では生活に支障があるような後遺症が出る可能性が考えられます。開胸手術が必要なほどの巨大な腫瘤であれば手遅れです。手術をする意味はないでしょう。また、上記の通り、開胸手術が必要なほど大量の肺を切除することの効能にも疑問を感じます。以上より、手術の是非、あるいは、手術の内容は、胸腔鏡手術でおさまるかどうかで判断すると良いと思います。そして、私が早期発見を促す理由は、ここにあります。とにかく小さいうちに腫瘤だけを取りましょう。

私は、リンパ節廓清をすべきでないと感じています。癌は血液だけでなくリンパを経由して転移すると考えられているため、転移のリスクの低減・延命効果を期待して、リンパ節を取り除くリンパ節廓清を行うのが一般的です。しかし、その代償は意外と大きい。リンパ節を取り除くと体の抵抗力が弱まります。その結果、まず、再発のリスクが増大してしまいます。これで転移のリスクの低減が帳消しになります。そして、術後、抗がん剤を使用する場合は、抗がん剤の副作用が大きく出る可能性があります。特に懸念すべきは間質性肺炎です。死に至るリスクのある肺炎です。肺がんに関するどの抗がん剤でも、その副作用に間質性肺炎は含まれています。間質性肺炎は、風邪やインフルエンザをきっかけとして発症しやすいため、体の抵抗力を弱めることは、風邪やインフルエンザに罹患するリスクを増大し、延いては間質性肺炎になるリスクも増大させることになります。繰り返しますが、この文章を執筆している今、手術から1年1カ月経過しましたが、再発の兆候は見られません。イレッサの効果かもしれませんし、かつ、上記の理由から「術後抗がん剤を使用する場合は」という条件付きですが、リンパ節廓清は不要と考えます。

それから、抗癌剤としてイレッサを服用する場合に限られるかもしれませんが、イレッサ耐性のところで記載している通り、イレッサの効果を最大限に享受するためには、対象となる癌細胞の数が少ないことが望ましいですので、その点でも、癌細胞だけを切除することをお勧めします。ステージⅣに分類されますと、手術はせずに抗癌剤だけを適用するという対処法が一般的ですが、事前に癌細胞の遺伝子検査を実施し、EGFR遺伝子変異が陽性であれば、もし胸腔鏡手術でおさまるのであれば、癌細胞だけを切除するという選択肢も検討されることをお勧めします。

肺癌とは関係ない話(1)

ICUから一般病室に移った時、同室にちょっとボケかかったおじいさんがいました。

毎朝、看護婦さんが起こしに来ると、

「○○さん、起きて下さい。」

「・・・」

「朝ですよ。」

「まだ夜だよ。」

「もう朝ですよ。」

「まだ真っ暗だよ。」

「目をあけて下さい。」

「あ、そうか。」

というコントが繰り返されます。

肺癌の手術痕は、笑うととても痛いので、毎朝地獄でした。